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チオレドキシン

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 チオレドキシンは105個のアミノ酸から構成される分子量12kDaのタンパク質で、5本のβシートが4本のαヘリックスに取り囲まれるような構造になっている(右図)。その活性部位は、タンパク質配列のN末端から32番目と35番目にあたる2つのシステイン残基によりC-X-X-Cモチーフをとることで特徴付けられる。
 そして還元型チオレドキシンは、これら2つのシステイン残基のチオール基を電子供与体としたレドックス反応を介して基質側のジスルフィド構造をチオール基へと還元し、自らの活性部位をジスルフィド構造として酸化型へ換える。そのほかにも、チオレドキシンは補因子であるペルオキシレドキシンに対しても電子供与体として働き、相互作用により活性酸素種の一つである過酸化水素を水に換える抗酸化物質としても機能する。
 また、チオレドキシンは細胞内において、NFκBやAP-1、P53に結合してこれらの転写活性機構を調節する 核内レセプターとDNAとの結合を制御し、一方ではASK-1へ結合することで細胞死を調節する。更に、表現系としては遺伝子改変によって創り出されたチオレドキシン過剰発現マウスは長寿傾向を示し、逆にチオレドキシンを発現しないノックアウトマウスは胎生期致死であった。
 チオレドキシンには、その活性ドメイン構造を共有するファミリー分子が多く存在する。例えば、本稿で中心に述べ るチオレドキシン1は細胞質に局在したり細胞外に放出されたりして、生体のレドックス応答を制御する重要な役割を演じるが、ミトコンドリアに局在して細胞死を調節する役割を演じるものをチオレドキシン2と言い、そのほかにも小胞体膜結合型のTMXやリソソーム局在型のGILTなどがあり、チオレドキシンファミリー分子は各細胞小器官で極めて重要なレドックス制御因子として働いている。すなわち、これらのことからチオレドキシンは、酸化ストレス抑制のみならず、レドックス制御因子としても生体必須の分子であり、その役割は広がり続けている。

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 我々自身によるチオレドキシンの臨床応用は、2003年から5年の時限で始まった京都大学医学部附属病院探索医療センターでのチオレドキシン・プロジェクトに遡る。プロジェクトの目的は、遺伝子組換えヒトチオレドキシンによる急性呼吸促迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome;ARDS)ならびに急性肺傷害(Acute Lung Injury; ALI)の患者を対象とした医師主導治験を通じて、治療法のコンセプトを検証すること(Proof of Concept; POC)にあった。成果としては、遺伝子組換えヒトチオレドキシン原薬や製剤の製造法が確立し、動物における有効性と安全性までが確認された。その中で、チオレドキシン定量のために先に紹介したELISAキットが用いられたことは言うまでもない。京都大学内でのプロジェクトはすでに終了したが、現在はヒトへの投与を目指して外資系製薬企業との共同プロジェクトが進行中である。
 また、京都伏見にある老舗酒蔵・黄桜酒造株式会社と10年近くにわたって共同開発した酒酵母由来のチオレドキシン・エキスには、遺伝子組換えヒトチオレドキシンと同様の 活性が認められたことから、最近では気軽に求めやすい機能性食品や機能性化粧品等も開発中である。
 チオレドキシンの最新研究のトピックスとしては、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科小児医科学教室と共同で実施したマウス(C57/BL6)を用いたインフルエンザウイルス(A/PR/8;H1N1)の経鼻感染による急性肺炎治療の研究で、遺伝子組換えヒトチオレドキシン投与群は対照群に較べて有意に高い生存率を示し、一方で肺への好中球浸潤を伴う炎症反応は軽微であり、肺胞洗浄液中の好中球数やTNF-α、血漿dROMs値は有意に抑制されていた(論文投稿中)。また、神戸大学大学院医学研究科内科系講座皮膚科学教室と共同で、遺伝子組換えヒトチオレドキシンを用いたアトピー性皮膚炎治療法を検証する臨床研究が進行中である。更に、チオレドキシンをバイオマーカーとして実用化するために、国内企業と共同でチオレドキシンをベッドサイドで簡便に計測・診断が可能となるシステム開発も行っている。
 京都市の外郭団体の一つである財団法人京都高度技術研究所(ASTEM)が京都大学産学連携本部の協力の下で計画した、環境や医療分野などの先端技術を生かして大学と企業が共同研究(産学連携)して産業化につなげる「高機能性化学研究開発拠点」の整備事業が、2012年7月初旬、経済産業省の「技術の橋渡し」拠点整備事業から採択を受けた。この高機能性化学研究開発拠点は、京都市南部の高度集積地区「らくなん進都」への建設計画が進行中であり、この拠点において、我々の「チオレドキシン・ハイブリッド事業プロジェクト」が産学連携実用化テーマの一つとして採用された。2013年夏に竣工の予定である。
 先に述べたチオレドキシンを用いた抗炎症やアレルギー・免疫疾患の治療法や計測・診断システムの実用化、酒酵母由来のチオレドキシンを用いた機能性食品や機能性化粧品の実用化は、産学連携システムを通じて、この新たな研究開発拠点で展開する予定である。

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 酸化ストレス関連疾患の診断や鑑別を行う場合、酸化ストレスの指標は代表的なものとして、これまでに8-OHdGや過酸化脂質などが用いられてきたが、ここにきて、これまでの数々の報告からチオレドキシンのバイオストレスマーカー応用の可能性が示されている。
 最近では、個の医療とするオーダーメイド型医療が普及し始めており、患者は疾病診断の際に必ずしも画一的な保険診療ばかりを望まなくなってきている。すなわち、チオレドキシンを簡便に計測することにより、「自分の病気やストレスの程度を知りたい」という患者ニーズに気軽に応えることができると想像する。
 現在、遺伝子組換えヒトチオレドキシンの医薬品やチオレドキシンの簡易診断機器の開発、機能性食品や機能性化粧品の開発が進行中であるので、今後のチオレドキシン実用化の動きに期待してもらいたい。